『古事談』(源顕兼 編)は、上代以来のわが国の説話460余話を、6編(第1:王道后宮、第2:臣節、第3:僧行、第4:勇士、第5:神社仏寺、第6:亭宅諸道)に分類した、鎌倉前期成立の説話集です。今回は、その中から「蜂飼大臣」として知られた京極大相国こと、藤原宗輔のちょっといい話を紹介。
(『古事談』第1「王道后宮」の92)
(『古事談』第1「王道后宮」の92)
現代語訳
京極大相国が、蜂を飼われていることを、世間は無益のことと言っていた。ところが5月のころ、鳥羽殿において蜂の巣が急に落ちて、院の御前に多く飛び散ったので、人々も刺されまいとして、逃げ騒いだが、相国が、御前に枇杷(びわ)があったのを一房取って、琴爪で皮を向いて高く掲げられたところ、蜂がすべて付いて散らなかったので、付けたまま、供の人を呼び、そっと捨てた。院も「都合よく、宗輔が居合わせて」と仰せになって、感心なさった。
注釈
- 京極大相国:藤原宗輔(1077〜1162)。平安時代後期の公卿。従一位太政大臣。風流人として知られるとともに、蜂を飼って愛玩したので、蜂飼大臣と称された。兄は『中右記』の記主である藤原宗忠。
- 鳥羽殿地図:山城国紀伊郡鳥羽にあった白河・鳥羽上皇の離宮。現在、鳥羽殿跡には、秋の山(築山)を中心とする鳥羽離宮跡公園と城南宮、安楽寿院などがある。
- 院資料2:鳥羽院。第74代天皇であり、譲位後、崇徳・近衛・後白河の3代にわたり、28年間(1129〜56)院政を行った。
- 琴爪:琴または箏(そう)を弾くときに指先にはめて用いる具。
資料
資料1 『古事談』の写本