三条東洞院の鬼殿の霊のこと

平安遷都以前から、今の京都市中京区に住んでいた男の霊の話です。不運な男の霊ですが、出典の『今昔物語集』が成立したころにもいたとされているので、少なくとも300年以上はこの世にとどまっていたことになります。今はもうさすがに成仏したのでしょうか……
(『今昔物語集』巻第27-1「三条東洞院鬼殿霊語」)

歌川国芳「二十四孝童子鑑 王裒」に描かれた落雷(出所:ウィキメディア・コモンズ)

現代語訳

 今は昔、この三条より北、東洞院(ひがしのとういん)より東の角は、鬼殿(おにどの)というところである。そこには霊がいた。
 昔、まだこの京に都が移されていなかったころ、その三条東洞院の鬼殿と呼ばれる場所には、大きな松の木があった。その近くを、男が馬に乗って、胡簶(やなぐい)を背負って通りかかった時、にわかに稲妻が走り雷鳴がとどろいて、雨が激しく降ってきた。男は先に進めなくなったので、馬から降りて自ら馬をとどめて、その松の木の下に座っていた。そこに落雷があり、男も馬も蹴り裂いて殺してしまった。そうして、男はそのまま霊になった。
 その後、京に都が移り、その場所には人が住むようになったが、その霊はそこから離れず、いまだにそこにいると語り伝えられている。極めて長い間住み続けている霊なのである。
 それゆえ、そこではしばしば不吉な出来事があった、とこう語り伝えているということだ。

注釈

  1. 三条より北、東洞院より東の角地図:三条大路の北、東洞院大路の東の角。今の京都市中京区にある中京郵便局のある辺り。
  2. 鬼殿:鬼・妖怪が住むという家。
  3. 京に都が移されていなかったころ:延暦13年(794年)の平安遷都以前のころ。
  4. 胡簶資料:矢を入れて背中に負う武具。
  5. 蹴り裂いて:古代から、落雷は雷の神が天から地に落ちて、足で蹴飛ばしたものととらえられていた。

資料

資料 胡簶(『年中行事絵巻』より。中央に立つ束帯姿の人は平胡簶、周りの随身は壺胡簶を背負っている)

出所:国立国会図書館デジタルコレクション

地図、時代区分

現在の京都府京都市中京区三条通東洞院東入る菱屋町30番地にある中京郵便局のある辺りでの話。
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男の霊がいまだそこにいたとされる、平安時代の話。

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